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東京高等裁判所 昭和45年(く)264号 決定

少年 T・O(昭二七・三・三生)

主文

原決定を取り消す。

本件を東京家庭裁判所に差し戻す。

理由

本件抗告の趣意は、附添人渡辺数樹が提出した抗告申立書記載のとおりであるから、これを引用する。

所論は、要するに原決定の処分の不当をいうものと解せられる(なお、少年は本件物件を被害者から借りたに過ぎなかつたとして、窃盗罪の成立を争い、事実誤認を主張すると窺われる筋がないではないが、関係証拠に照らすに、原決定の認定(理由の1)は相当であつて、何ら事実の誤認は存しない。)。

そこで、本件記録並びに少年調査記録を調査、検討し、かつ、当審における事実取調の結果をも参酌して審案するに、原決定が少年を本件保護処分に付する事由として掲げる(1)ないし(5)のうちには、当裁判所としてもこれを肯認するに吝かでないものも存しないわけではなく、とくに、少年が本件犯行につき主犯的な立場にあり、かつ、すでに共同暴行、窃盗の各事件により三回にわたりそれぞれ審判不開始処分を受けているのに反省の色なく、無為徒食して博徒などと交わり、親、きようだいの許にも寄りつかず、不真面目な生活を続けているうちに本件犯行に至つたものであることは、これを否定すべくもないところであるが、ひるがえつて考えてみるに、少年としては、今回は身体の拘束も受け、相当のショックを受け反省していることは推認するにかたくなく、原決定のいうようにその反省が一時的なものに過ぎないとは必ずしも断定できないし、保護者らにおいても事の重大性に驚き心を新たにして少年の指導監督にあたることを誓つていて、その保護能力にも十分期待しうるものがあると認められるので(原決定後ではあるが、少年の実兄において被害者とのあいだに示談弁償の措置も講じている。)、未だ可塑性に富むとも認められる本件少年に対しては、在宅保護によつてその矯正教育を施すのが相当であると考えられる。されば少年を中等少年院に送致の決定をした原決定は、相当でないといわざるを得ない(なお、少年は本件窃盗事件以外に相当回数の窃盗事件を犯していると疑われる節がないわけではないが、仮りにそのような事実があるとしても、もとより当審の審査外の事項であつて、右結論に消長を及ぼすものではない。)。

よつて、少年法三三条二項に則り、原決定を取り消したうえ、本件を原裁判所である東京家庭裁判所に差し戻すべきものとし、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 栗本一夫 判事 小川泉 藤井一雄)

参考 原審決定(東京家裁 昭四五(少)一二、四七一号 昭四五・一〇・一五決定)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

一 罪となるべき事実

少年は、○水○男と共謀して、昭和四五年八月一七日午後七時頃、東京都豊島区○○町×丁目××番地○荘○号室○引○子方において、同人所有のステレオ一台(時価六五、〇〇〇円相当)を窃取した。

二 上記事実に適用すべき法条

刑法第二三五条。

三 主文記載の保護処分に付する事由

(1) 少年は、共犯の○水○男が当初少年の誘いに応ぜずむしろこれを制止しようとしたのにかかわらず、○水○男と被害者の○引○子の同棲関係が絶たれたことを知りつつ、○水○男を強引に説き伏せて本件非行を敢行したもので、少年は主犯的な立場にあつた。

(2) 少年は、中学生の頃から、短気かつ自己中心的で悪事に走りやすく反省心がなく、決められたことを守れないなど性格的な偏りがあつたが、昭和四三年に高校を中退した後も気ままな生活が続き、一定の職業に落ち着くことができず、この間、昭和四一年一一月に他三名と共に中学生に暴行して昭和四二年七月に審判不開始となつたほか、単車、パン、コカコーラ、テレビなどを盗んだことがあり、昭和四四年重頃博徒○友会○平一家の○田○の舎弟となり、当庁昭和四四年少第一四七四四号窃盗事件に際しては相当調査官から今度非行を行えば少年院に送致されることもある旨の警告を受けた。

(3) 少年は、昭和四五年七月頃から勤労意欲を全く失い、バーなどで遊興飲食を続けて自らは友人の○水○男に寄生して生活し、やがて、寄宿していたスナックバー「○ート」の宿泊施設からも追い出されて、一旦手を切つたはずの前記○平一家の一員のもとに逮捕される数日前から身を寄せていたもので、本件非行は少年の以上のような生活の当然の帰結ともいうべきものであり、これを放置するならば、少年が今後も他人の犠牲において安易に生きていくことは避けられないし、ますます非行の学習を深めるものと考えられる。

(4) 少年は、本件非行後、反省の態度がなく、被害弁償の途も講じようとしなかつたばかりか、バーの借金に充てるためテレビを窃取し入質して換金したのにかかわらずその一部を自己の遊興飲食費に費したのであつて、このような一連の経過から見ると、少年が鑑別所に入所したため一時的にショックを受けて反省したとしても、その反省がどれだけ深くかつ長続きするものであるかについては疑問を持たざるをえない。

(5) 少年の保護者は、少年を親戚宅に預けて監督したい気持を持つているが、少年を幼い頃からわがままに育て、これまで少年が数回非行を行なつたにもかかわらず、昭和四五年六月に足をけがして退職して住込先から自宅に戻つた後、適切な監督、教育をなしえず、少年は修理工場に行く旨を告げて自宅を出たまま親兄弟と連絡を断つたもので、家庭の保護能力は不十分であると考えられる。

(6) 以上の事情を考え合せると、少年の非行性はとうてい在宅保護の措置ではこれを除くことができないと認められる。そこで少年に対して矯正教育を施し心身陶冶の機会を与えその健全な育成を図るため、少年院に送致することを相当と認め、少年法第二四条第一項第三号を適用して主文のとおり決定する。

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